不安障害の治し方

一口に不安障害といってもパニック障害や社会不安障害(社交不安障害)、全般性不安障害、強迫性障害など様々なものがありますので、ここでは共通しそうなことについて取り上げます。例としては、主にパニック障害をとりあげます。

不安障害は「治る人と治らない人」がいますが、知識が不足している患者さんは「運が良い人が治り、運の悪い人が治らない」と考えていることが多いように感じます。しかし、実際は治るか治らないかは「適切な治療努力を行ったかどうか」という部分がとても大きいです。

不安障害の治し方ですが、「とてつもなく難しい」というわけではありませんが、「単調」というわけでもないです。もし不安障害の治し方が単調なものであれば、医師は治らない原因をすぐに見つけ、100%に近い確率で治しているはずです。しかし、現実はそうなってはいません。不安障害の治し方を一言で述べることは難しいので、長々とした文章になります。

「症状の似た不安障害者同士」は、細部まで驚くほど症状が酷似することがあります。例えば、典型的なパニック障害者であれば、普通電車よりも新幹線が怖く、新幹線よりも飛行機が怖いです。これは性格が酷似しているからそうなるのでしょうか?

結論から述べると、それは違います。同じ患者同士でコミュニケーションをとればわかることですが、病気の症状によって行動パターンは似てくることはあるものの、性格は人それぞれです。そうしたことから、「パニック障害者同士」は、「性格が似た者同士」ではなく「脳の同じ部分に同じような問題を抱えた者同士」ということが言えるかと思います。

仮に、 パニック障害の方たちが「脳の同じ部分に同じような問題を抱えた者同士」であるとすれば、治った人と同じようなことをすれば同じような過程をたどって治るはずです。実際はどうなのかというと、少なくとも私の場合、この仮説は正しかったです。「単に筆者の運がよかっただけでは?」と思う人もいるかもしれませんが、そうとは言い切れません。私は先輩患者と同じようなことをして治ったので、「全くのまぐれ」ではないのです。

「治るような人はどのようなことをしているのか?」ということが問題になりますが、状態や程度によって異なるため、一言で述べることは難しいです。ですので、ここでは「とても重度な患者」を想定して述べます。

重篤なパニック障害から回復した患者のほとんどは、主剤に抗うつ薬を使っています。このように書くと、「抗うつ薬を使えばパニック障害は治る」と思うかもしれませんが、それは少し違います。抗うつ薬を使っても治らない人はとても多いです。そのため、「抗うつ薬を使っても、治る人と治らない人がいる」ということに注目しなければなりません。この差がなぜ発生するのか知ることができれば、パニック障害が治る確率は高まるはずです。

私の経験では、パニック障害は、抗うつ薬の性能を引っ張り出せたときのみ治すことが可能になります。これはおそらく、他の不安障害でも同じです。

パニック障害を治せた人たちの共通項は、たまたま治ってしまったような運のいい人たちを除くと、抗うつ薬の性能を引っ張り出せるだけの知識を持っていた人たちです。ですので、パニック障害者が書籍から情報を得ることはとても重要です。

抗うつ薬の「漫然投与」があまり効果を示さないことは、トップレベルの医師たちは比較的早期から気づいていました。「漫然投与とは何なのか?」ということですが、「考えなしに投与する」という意味です。抗うつ薬は考えなしに服用してもあまり効果を示さないのです。

抗うつ薬をどのように服用するかについては、もっとも重要な部分なのですが、長い話になるのでここでは割愛します。何故かというと、抗うつ薬を上手に服用するためには、①患者の状態、②病気に対する知識、③薬に対する知識、④社会的環境、など、いろいろな要素が関係してくるため、端的に述べられないからです。しかしながら、先人たちが残してくれた資料をたくさん読むと、治療法(抗うつ薬の服用のしかた)で迷う局面はなくなります。もし迷っているとすれば、読書量か理解度のどちらか、あるいはその両方が足りていません。これは回復するためのとても大きなヒントです。

「患者教育」が不足しているために治療に失敗してしまう人をよく見かけますので、不安障害の方は患者教育を受ける必要があります。しかし、ほとんどの患者さんは受けたことがないと思います。私は何年も通院しましたが、一度も受けたことはありません。不足している知識は、自習で補う必要があります。

患者教育の内容は、2つに分けることができるかと思います。一つは「服薬コンプライアンスを順守するための教育」です。服薬コンプライアンスとは、薬をきちんと服用することをいいます。かぜ薬は飲み忘れたとしても大きな問題になることはありませんが、抗うつ薬は大きな問題になります。実際に、患者が抗うつ薬を飲んだり飲まなかったりすることによって事件・事故が発生しています。このことはNHKのリポート番組にも取り上げられたことがあります。知識不足の患者さんは、「体調が良くなってきたから薬を飲まない」であるとか「この薬は効果を感じないから飲まない」ということを高確率でやってしまいます。しかし、抗うつ薬ではそうした飲み方をしてしまうと事故につながってしまいます。

患者教育のもう一つは、「服薬アドヒアランスを向上させるための教育」です。服薬アドヒアランスとは、患者が積極的に医療に参加することを言います。日本では馴染みのない言葉ですが、適切な服薬アドヒアランスができなければ、治るものも治らないです。なぜなら、抗うつ薬の性能を引っ張り出せなくなってしまうからです。不安障害の治し方を一言で述べるとすれば、「適切な服薬アドヒアランスができるようになること」です。服薬アドヒアランスを具体例で述べると、医師に「私は、病状が悪いまま平行線なので、今飲んでいる薬を増量したい」といったような主張をすることです。医師に治療に関する提案をするのですから、患者側に相応の知識が必要となります。医師に遠慮して服薬アドヒアランスを実行できない人もいますが、服薬アドヒアランスは失礼なことではないです。治療に関する質問(あるいは提案)は、技量のある医師であれば丁寧に答えてくれます。中には服薬アドヒアランスを認めない医師もいるかもしれませんが、その場合はセカンド・オピニオンを受ける必要があるかもしれません。

多くの日本人は「医療は医師から患者へのトップダウンで進むもの」と考え、それについて疑問を持っていません。しかし、この思い込みは精神科領域の治療においては、よい結果をもたらさないことが多いです。急性期は医師が中心になって治療を進めていく必要があるのですが、急性期を過ぎたら患者主導で治療が進む形に移行していなければなりません。人間の観察能力では、たとえ医師であっても、患者の苦痛量を容易に見誤ってしまうからです。「患者が医療の中心になり、医師がそのサポートを行う」というスタイルは、他の先進国では特別なことではありません。

「罹患直後は服薬コンプライアンスを守り、その後は適切な服薬アドヒアランスができるように勉強する」というのが不安障害の治し方です。